2013 花椿 1月号

資生堂 企業文化誌〈花椿〉一月号(七八二号)
株式会社資生堂
2012年12月1日

新『花椿』では、毎号ひとつの言葉をテーマに主なページをつくります。
1月号のテーマは「きよめる」

P12
 
二十歳の頃、初めて出雲大社に出かけてみて意外に思ったことがある。
なぜか文献で研究してきた出雲は山深い場所だとばかり思い込んでいたのだが すぐ近くに竜蛇神が寄せくる稲佐浜(いなさのはま)があり、ウミネコがつどう経島(ふみしま)があり その先には絶壁に立つ日御碕(ひのみさき)があったからである。
さらに、意宇川(いうがわ)の水源を訪ねたり、斐伊川(ひいがわ)の恵みに触れたりして、ようやく出雲を肌でわかったような気がした。出雲は豊かな水に恵まれた土地だったのである。
それゆえに出雲における禊(みそぎ)の重要性はそう簡単には語りつくせない。
禊とは神聖な水で穢れを洗い落とすことを意味している。
もともと竜の末裔と称する海の民が禊をつかさどる水辺の巫女と婚交することが この国の主要な祭事を形成することになったわけで、彼女らの存在なくしては この国の信仰自体が成り立たないのであった。
出雲のヒナガヒメが蛇の姿をしており、海神の娘トヨタマヒメが産屋で八尋鰐(やひろわに)の姿になったのも、その出自が水とより密接にかかわっていたことを示唆するものであった。


植島啓司(宗教人類学者)


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