アカデミー賞

2025年4月5日

アメリカの映画の祭典・アカデミー賞は先月(2025年3月2日)発表されたけれど、紆余曲折があって映画『ANORA アノーラ』が主要5部門で賞を獲得することで幕を閉じた。今年はいつもよりも興味深く各賞の行方を追ってきたのだが、当初本命視されていた『エミリア・ぺレス』がスキャンダルで脱落し、『ブルータリスト』も意外に伸びず、これは大混戦になるかなと思っていたら、セックスワーカーが主役で、全編セックスまみれの『アノーラ』が作品賞、監督賞、主演女優賞など5冠を獲得した。ストーリーも陳腐で、こうなるんだろうなという予想通りの結末だったが、よくできた作品であることはたしかなので、まあそうだろうなという気持ちで授賞式を見終わることになった。

ところが、それはそれでいいと思っていたのだが、タイトルからしてあまり食指が伸びなかった(それで見なかった)『教皇選挙』を後で見たところ、これがとんでもない傑作で、今年のアカデミー賞候補作の中では断然第1位の作品だったのである(その証拠に日本では多くの批評家たちが「作品賞」にこの作品を挙げていた)。舞台はカトリック教会の総本山であるバチカンのトップである教皇を決める選挙(「コンクラーベ」という)。世界中から集まった108人の枢機卿による投票をめぐる有力候補者たちの駆け引きを描いたものと書くと全然興味がわかないが、これがまたスリリングな知的ミステリーで、すばらしい映像とみごとな色彩感覚、衝撃的な結末も含めて、もう感動で立ち上がれないほどみごとな作品なのでした。特に首席枢機卿のローレンス役のレイフ・ファインズの演技は特筆ものだった。考えてみたら、宗教学者にあるまじきことに、一番最初に映画館に行くリストから外していたのだけれど、友人がメールをくれて、ぎりぎりで見ることができて本当によかった。

ついでに言うと、『教皇選挙』が受賞できなかったのも理解できないわけではない。終盤に衝撃的な事実が明かされるのだが、そんなことがあっていいのかと賛否両論になったのだろうが、それこそ『教皇選挙』がもっともすばらしいと思えた点で、アカデミー賞というものはそこを乗り越えてこそ存在価値があるというものではないかと思うのである。

ぼくは個人的には、ニコール・キッドマンの『ベイビーガール』もお勧めだった。愛する夫と子ども、キャリアと名声、すべてを兼ね備えながらもどこか満たされない主人公ロミーを演じるニコール・キッドマンのいさぎよい演技はなかなか見もの。彼女がすべてをさらけ出した演技だと絶賛された巨匠スタンリー・キューブリック監督『アイズ ワイド シャット』を超えて挑戦した新境地は、監督が女性であるハリナ・ラインということもあって、なかなか見ごたえのあるものとなっている。残念ながらアカデミー賞は落選してしまいましたが、ぜひお勧めしたい。

それから、候補作にはなっているものの受賞には至らなかった作品『小学校~それは小さな社会~』も日本の公立小学校の日常に密着した作品で、短編ドキュメンタリー賞にノミネートされただけでも快挙と言わざるを得ない。特に子どもたちに楽器を振り分ける際のエピソードはだれもが涙するに違いないだろう。

今年のアカデミー賞は例年に比べて小粒でもう一つだという評があるなかで、授賞式を見てみるとそれなりに、というか『教皇選挙』のように映画史に残る名作もちらほらと見えて、むしろとても興味深いものとなった。ぼくの家には2000本近い洋画のDVDコレクションがあるけれど、これだから、映画を「映画館」で見ることがやめられないのである。

★ここでお知らせです。
このところ、楽しそうな仕事がいくつか舞い込んできました。日本一の読書サークル「猫町倶楽部」でぼくの本『生きるチカラ』(集英社新書)をみんなの読書会で扱ってくれるというのです。大好きな本なのでとても楽しみです。4月27日(日)なんですが、まだ詳細は未定です。「猫町倶楽部」のサイトをご覧ください。

他にもおもしろそうな企画がいくつかあります。「熊野古道女子部8周年記念講演会」では「聖地熊野を語る」という講演をやります。オンラインも可。5月25日(日)15時からESTA青山にて。
連絡先は kumano@office-takamori.co.jp です。

keiji ueshima

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