毎日新聞
2013年09月21日 中部朝刊
21世紀の遷宮:想う 宗教人類学者・植島啓司さん
◇原初再現がポイント
神が降りた場所と、人々がお参りする場所。聖地には2通りあります。前者は土着の神、後者は権力者、中央から来た神と関係しています。土地の神が降りた場所は山の上や磐座(いわくら)といった、へんぴなところが多い。熊野や出雲がそうです。祈りの場は平野部で、交通の便が良いところにあります。伊勢神宮は後者でしょうね。
神宮を初めて訪れたのは40年ほど前ですが、何か違和感を覚えました。豊かといわれる自然がかっこ付きなのでは、と思いました。例えば伊勢は広葉樹林帯なのに、一般の参拝客が通る道沿いは、全て神宮杉などの針葉樹が植えられていた。高地にある神が降り立った聖地の雰囲気を人為的につくり出しているようでした。祈りの場としてこれほど巧妙に仕立てられ、洗練された場所は世界のどこを探してもありません。
式年遷宮の起源は技術の伝承とか諸説ありますが、あくまで現代の感覚による解釈でしょう。大本は天体観測とか暦とか、時の移り変わりを反映したものだったはずです。
聖地で最も重要なのは祭りで、共同体の発祥を語ります。伊勢神宮の神嘗祭(かんなめさい)は、神宮の歴史をそのまま復元している。これを拡大したのが遷宮です。神宮がどのように始まって、どんな意味があるのか。原初に起こったことを再現することが遷宮の最大のポイントです。だから、常にピカピカで新しいことに意義があるわけじゃないと思う。
その繰り返しの中に永遠を見つけるというのがまさに日本人的な考え方です。暦の上で20年に1度、一つの循環が終わったことを表し、リセットする。100カ国以上調査しましたが、他に類似の制度はありません。素晴らしい仕組みだと思いますね。【聞き手・大野友嘉子】=随時掲載
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■人物略歴
◇うえしま・けいじ
1947年、東京都生まれ。米ニュースクール・フォー・ソーシャルリサーチ客員教授、関西大教授などを歴任。世界各国の聖地を訪れている。主な著書に「聖地の想像力」「日本の聖地ベスト100」など。
( http://mainichi.jp/area/news/20130921ddq041040013000c.html から引用)