2012 週刊文春 4/19号

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週刊文春 2012年4月19日号

文春図書館 活字まわり
「世界の全ての記憶」 植島啓司 15

 社会科学の分野で話題となり賛否両論を巻き起こした古市憲寿絶望の国の幸福な若者たち』に、次の一節がある。
たとえば、ユニクロとZARAでベーシックなアイテムを揃え、H&Mで流行を押さえた服を着て、マクドナルドでランチとコーヒー、友達とくだらない話を三時間、家ではYoutubeを見ながらSkypeで友達とおしゃべり。家具はニトリとIKEA。夜は友達の家に集まって鍋。お金をあまりかけなくても、そこそこ楽しい日常を送ることができる。
 
いまの日本ではお金がなくてもそれなりに楽しい生活を送ることができるということである。たしかにその通りかもしれない。その証拠に、現代の若者の生活満足度や幸福度はここ四〇年間で一番高いという調査結果もあげられている。いまの若者を不幸だと言ったり、なぜそれに対して異議申し立てをしたり、立ち上がって抗議したりしないのかという年長者も多いけれど、彼らは自分たちをまったく不幸だと思っていないらしい。
 いまの若者の生き方をずっと今日まで実行してきたぼく(拙著『生きるチカラ』参照)からしても、彼が挙げるメーカーがなかった頃は、さすがにファッショナブルというわけにはいかなかったけれど、それでも、現在の生活の不安に対抗しうるほどの未来への不確かな期待もあったので、なんとなくふわふわと生きてこられたのだった。
 幸福とはいま現在の状態を表わす言葉ではなく、これから先に希望を抱けるかどうかによって測られるものだ。いまの若者たちに果たしてそれがあるのかどうか。原発事故の後遺症や巨額な財政赤字を後世に残しながら何もできない上の世代に対して、今後、すぐれた妙手を連発できるのかどうか。それでも、「狼がくるぞ!」と騒ぐ連中よりも、果報は寝て待てとばかりのんびりと生きる人たちにどうしても肩入れしたくなるのである。


絶望の国の幸福な若者たち

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古市 憲寿
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