2013 ゆほびか 6月号

ゆほびか6月号
特集=心が軽くなる生き方
株式会社マキノ出版
2013年4月16日発行

 

心を軽くするコツ11
P32- 33

1  人を好きになる 宗教人類学者 植島啓司

人生は意外と短い。人を好きになる才能を磨き、複数の顔と居場所を作ろう!

 

・1つのマイナスで人をキライにならない

 先日、カフェで原稿を書いていたときのことです。近くの席から若いカップルの会話が聞こえてきました。キャバ嬢らしき女の子が、茶髪の男の子になにやら相談しています。

「○○な仕事をしたいんだけど、私の性格じゃあムリかも・・・・・」と女の子が言うと、男の子は彼女のことを、めちゃくちゃほめはじめました。

「そんなことないよ。ユミちゃんは最高だよ。みんなユミちゃんのことを憧れに思っているんだよ」

 女の子が話している間、彼は一言も否定的な言葉を差しはさまず、ひたすら彼女のことを肯定し続けました。最初は元気がなかった女の子も、彼からほめ続けられたおかげで、席を立つ頃には気持ちよさそうな笑顔になっていました。

 男の子は見事でした。こんな子がいたら、女の子はきっと好きになるでしょう。姿形など関係なく。

 その日、別の席では30代の女性2人がこんな会話をしていました。

「飲み会の後についてくるような男の人ってイヤよね」

「うん、うん。イヤよねえ」

「カラオケ行って、相手の男の人が歌ヘタだったら、どうしちゃう?」

「それってホント、やってられないわよ」

「でしょ~」

 あまりに対照的な会話に、私は思わず聞き入ってしまいました。

 私たちはよく人を好きになったり、キライになったりします。人をキライになるのは誰にでもできますが、好きになるのはやっぱり才能です。

 たいていの人は、1つマイナスがあると簡単にキライになります。例えば、婚活中の女性は、「おなか出ている人はイヤ」「たばこ吸う人、ぜったいダメ」と。それでいて、「全然いい人が現れない」と嘆きます。

 第一印象が悪いと「生理的にキライ」と一発却下する人もいますが、1つのマイナスでキライになるのは損です。すぐに嫌わず、丁寧につきあってみると、しばらくして違った印象を持てることがあるからです。

 1つのマイナスでキライになるより、1つのプラスで好きになる。

 相手のいいところを見つけ、肯定して受け入れる。そんな好きになる才能を磨くことが、人生を心軽やかに生きるコツだと思います。これは、あらゆる対人関係で言えることです。

 性別、年齢を問わず、人を好きになれる才能は、皆持っているはず。しかし、日本人はそれをストレートに表現するのが苦手です。ラテン系の人のように、自然にサッとハグしたり、キスしたりできれば、互いにすぐ体でわかり合えますが、日本人は他人との体の接触が苦手なので、好意がなかなか伝えられません。言葉にすると、どこか大げさな感じがして、言いそびれてしまうのです。

 人を好きになる才能を磨くには、意識して自分の好意や相手をほめる言葉を口に出すことです。相手もうれしくなって人間関係も円満になるでしょう。

 

・いろんな顔・居場所を作って複数の人生を生きてみる

 人間はいずれ年を取って病気になり、必ず死ぬ運命にあります。意外と短い人生を心軽やかに生きるもう1つのコツは、いろいろな人生を生きることではないかと思います。

 30年来、現地調査を続けているバリ島では、男たちのほとんどが1日のうちでいろいろな役割を果たしています。朝は「農民」として働き、昼になると道端で賭け事に興じ(「ギャンブラー」)、夜はガムランを演奏する「ミュージシャン」になったり、祭の「司祭者」なったり・・・・・。

 アフリカやアジアは、とても貧しい国だと思われています。確かにお金はありませんが、生活や生き方は、欧米や日本よりはるかに豊かです。なにしろ誰もがミュージシャンだったり、ダンサーだったりするのですから。

 1人の人間が、同時にいろいろな役割を持っていられるのは素晴らしいことです。日本のように、帰属する場所が限られた社会では、いったん会社や学校を離れると何者でもなくなってしまいます。定年後の男性が鬱になりやすいのも、たった1つの居場所を失ってしまうからでしょう。

 生きていれば、いいこと、悪いこと、いろいろなことが起こりますが、例えば、スポーツクラブ、サークル、英会話、料理教室などでたくさん友人を作っておけば、あまり煮詰まらず、人生を楽しみ続けることができると思います。

 女性には、たやすく複数の人生を生きる才能があります。犬の散歩をしていれば、「ポチ君のママ」、子連れで公園にいれば「ハナコちゃんのママ」として、井戸端会議に花が咲きます。子どもがいなくても、趣味のサークルやボランティア、カルチャーセンターなどで仲間ができます。やることがいっぱいです。

 男はそれが苦手です。「タロウ君のパパ」どうしがすぐ友だちになることは、まずないでしょう。仕事をしてお金を稼ぐことでしか、自分の顔を持てない人が大多数なんですね。

 1つ居場所を増やすと、自分も知らなかった別の自分を1人増やすことができます。私自身は、大学教授で、ギャンブラーで、作家で、旅ばかりしている人間でと、自分をいつも違った得体の知れない人間にしておくことで、生きる力を得てきたように思います。意外と短い人生を何倍も楽しむために、複数の人生を生きることをお勧めします。

(ゆほびか 2013年6月号 より引用)


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